写真手帖

写真作家の2人が写真を撮りながら考えたこと。

『色彩を持たない多崎つくると、彼の巡礼の年』で考える超個人的写真考

KikutaBayashiです。

 

今日は珍しく小説の話をします。

村上春樹さんの小説で『色彩を持たない多崎つくると、彼の巡礼の年』というものがあります。これ、僕が大好きな小説です。

むしろ大好きというよりかは、なぜだか胸に残って忘れられない小説といった所でしょうか。

そして僕は主人公のつくるという人物が好きなのです。

 

  

カメラは基本的に大切なもの、美しいものに向けられるものである。

とここでいきなりカメラの話に入ります。

カメラは基本的には祝福・記念・保存のために使用されることが多いです。

子供の成長の記録であるとか、恋人の美しい一瞬とか、旅行の記録なんかですね。

どれもこれも大切なものばかりですね。

あとはモデルさんやファッションやインテリアなど美しいものたちでしょうか。

 

僕自身、旅行に行けば写真を撮りますし、恋人の写真とかガンガンに撮ります。

一緒に旅行に行った友人に

「お前と一緒にいると常にシャッター音が鳴ってて耳から離れなくなる。」

とクレームを入れられるほどバカスカ撮ります。

 

やっぱり大切なものは写真に残したいんです。

子供ができたりしたら、死ぬほど家族写真を撮りまくり奥さんに鬱陶しがられる未来が容易に想像できます。

 

 

でも僕は言葉にできないもの、意味のないもの、理由のないものが見てみたい

急に暴論でごめんなさい。

僕は捻くれてるので、美しい''だけ''のものにはあんまりピンときません。

 

インスタで映える綺麗な花火とかキラキラのイルミネーションとか、ナイトプールとか心の芯が真っ暗な僕には色んな意味で眩しすぎです。恐れ多いです。

なんかもっと疎外されてわきっちょで風化しちゃってるようなものにこそ共感を覚えます。

 

僕の持論ですが写真には何らかの形で心のあり様みたいなものが映ると考えています。

つまりは、派手に賑やかに生きている人の写真はそれ相応に派手だし、孤独な人の写真はそれだけ孤独な哀愁を帯びています。

(ただし、派手に生きていつつも実は孤独を抱えている人物などであれば、それはそれで面白いギャップのある写真を生むかもしれません。今回の記事では触れないでおきます。)

 

写真は自分でも言葉にできない無意識を写しとってくれる心の抽出機みたいな機能を持っていて、それこそが写真の持つ力の1つであり、時折実に美しい抽出物を秘めた人物がいるのだと思ってます。

そしてそういった人物は、歴史に名を残した写真家に多いと考えています。

 

 

多くの写真家たちは孤独な生の中で何かを写してきた

写真家というものはどこか孤独を帯びている

人が多い様な気がします。

 

例えば、死した妻の姿までを写真に写し狂ったように生と死を取り続けるアラーキーや、ひたすらに街の記録・コピーを撮り続ける森山大道ミシシッピ川沿いを彷徨いながら夢想の中で風景・人物を撮り続けたアレック・ソスなどと、彼らは皆孤独です。

 

何度も彼らの絵を真似ようとしましたが、や

っぱり全然ムリでした。

そもそも見ている世界が全く違うのだと思います。彼らの視点は研ぎ澄まされていて、小手先で真似たところで''っぽい''にしかなりません。

 

つまりは

''他の誰にも見ることのない世界を見ることができる人たち''

であり、こういう能力って、自分の闇・孤独とひたすらに向き合うことで、得られる特殊能力のようなものだと思ってます。

 

多崎つくるの生きる世界は美しい

 

多崎つくるの生きている世界って非常に脆くてどこか現実味がなく、淡々としていてそれでいて時折心に突き刺さる様なリアルさを秘めています。

 

「悪いけど、もうこれ以上誰のところにも電話をかけてもらいたくないんだ」

 

主人公のつくるは、かつての仲良しグループの1人のアオという友人から、突然絶交を言い渡されます。

理由は教えてもらえません。

つくるはある日わけもわからず突然一人ぼっちになり、その孤独から常に死を意識した生活を送ることとなります。

 

そのまま彼はしばらく抜け殻のような生活を送りますが、ある日の夢を境に激しい怒りの感情を覚え、それが生への渇望へと繋がります。

 

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まるで私写真みたいだ、と思った

多崎つくるが直面した突然の孤独や絶望とか、死へと吸い寄せられる心情であるとか、夢から芽生えた激しい怒り(嫉妬?)などは、どれも文章にできたとしても完全な理解は難しい実に絶妙な感情です。

いくら説明をされようと、人は他人の感情をそっくりそのまま味うことはできません。

だからこそ、つくるがカメラを持ったら実に面白い写真が撮れるんだろうなーなんて思ったりします。

 

彼が圧倒的な孤独や怒りを淡々と受け取れる態度は、写真家に近い気がします。

 

 

というわけで読んで見てほしいです。特に孤独な人。

写真という観点から紹介しましたが、そうでない人も、ぜひ読んでみて欲しいんです。

 

写真をやっている人であれば、意外なところで突き刺さるものがあるかも知れません。

 

村上さん特有の心象世界も今作はほぼ登場しないので、非常に読みやすいと思います。

※ぼくはあの心象世界の描写大好きですが..

 

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ではまたね〜🐯